バッハと同時通訳

On 2018年1月16日, in ピアノ教室, 上達への道, by admin

よくテレビに出る脳科学の先生たちは、何故か子どもの習い事にやたらとピアノを薦めていますね。
先日も「バイキング」という情報番組でその様な放送があったと、facebook上で「ピアノ関係者の間で」話題でした。
私は残念ながら放送を見ていなかったのですが、一般社団法人全日本ピアノ指導者協会(PTNA)のページでその番組の内容が紹介されていたので、以下、引用します。

“本日9月25日(木)11:55より放送されたフジテレビの番組「バイキング」にて、「脳科学者11人に聞いた12歳までに通わせるべき習い事ランキング」で「ピアノ」が見事第1位に輝きました!
なんと出演した脳科学者11名全員が「ピアノを習わせるべき」と選択。
ピアノを演奏する際、小指、右手、左手、右足をばらばらに動かすことにより、脳の前頭前野が活性化し、同時処理能力がUPするそうです。例えば「授業を聞きながらノートを取る」など、同時処理能力は勉強する上でも仕事をする上でも大変重要な能力です・・・
本日の番組内で紹介されたランキングは以下の通り。

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1位:ピアノ(11名)     …同時処理能力UP
2位:ダンス(7名)     …脳の瞬発力UP
3位:スイミング(5名)  …思考力UP
4位:器械体操(3名)  …情報吸収力UP
5位:そろばん(2名)    …記憶力UP
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以前は、感情や情緒、精神面を育む情操教育としての効果を期待されていた(音楽)ですが、特にピアノに限って最近は脳の発達にも期待が寄せられているようですね。
研究者の方々のデータにより証明されているのであれば、実際にそういう効果もあるのかも知れません。
ただ、ピアノを始めて急に頭が良くなり成績が上がった!!・・・なんてことは、多分あまり起こり得ないとは思うのですが、ピアノ脳活性化ブームのずっと前にフランスでこんなお話をしてくれた方がいました。
その方はフランスで出会った日本人の女性で、小さいときからかなり熱心にピアノを習っていてヨーロッパに留学をしたほどでしたが、途中で進路を変更して同時通訳という職業に就かれました。そしてフランスの大統領の同時通訳も務めるほどのキャリアにまでなられました。ピアノから同時通訳。。。なんて凄い方向転換!?と興味深く思い、いろいろお話聞かせてもらいました。その方がおっしゃるには、ピアノの、特にバッハのフーガを勉強した事が同時通訳ですごく役に立っているのだそうです。

よく、脳科学者が「両手を使い別々の動きをすることが脳に良い」ような発言をしているそうですが、実際にはそんなものではなく、10本の指で腕5本分くらいの別の動きを同時にしています。

わかり易いのがバッハです。
歌をピアノ独奏にアレンジした曲をはじめ、メロディックな曲は左手が伴奏、右手がメロディー(または逆)となっていますね。これなら別々の動きでもまったく難しくないのですが、バッハの場合は伴奏はなく、独立した複数のメロディー(声部と言います)が織り重なりながら、一つの曲を構成します。一本の腕が一つの声部を担当できれば余裕ですが、バッハは2声、3声、4声、5声・・・腕は2本なのにたくさんの別々の声部を弾かなければなりません。独立した複数の別々のメロディーを同時に弾いたり聞くことが求められる、フーガのような多声部音楽を弾くのはとても複雑で訓練が必要です。
ある声部の動きを頭のどこかに留めながら、別の声部が動きを始めて、今度はその2つの声部を頭のどこかに置いて進めながらまた別の新しい声部が出て来て、という具合にどんどんと増えていき、最終的には5つの別々の動きを同時に処理しなければなりません。

頭の中でのこの働きが、同時通訳の頭の中で起こっている働きに非常に似ているのだそうです。
言われてみれば、翻訳や通訳と違い、同時通訳の方は「聞いて理解する」作業と、「文章を組み立てて話す」作業を同時にしています。上の記事にあるような授業中の「聞く」+「書く」作業はバッハを弾けなくてもできそうなものですが、一定の速度(時間の流れの制約)の中で、聞きながら同時に別の言語で聞き手に向かって喋ることは、多声部音楽を弾いている状態と似た部分があるかも知れません。
先日レッスンの時にバッハを弾いた大人の生徒さんと話したのですが、平均率集のフーガでは5声が一番難しいかと言うと実はそうでもなく、ゆるい動きの5声よりは複雑で難しいパターンの3声、4声がやはり一番の鬼門だと感じています。
最初は難しくてできない~~と思っても、訓練でコツは掴めるはずです。頭の中に回線が複数あって、一旦開通してしまえば使うのは簡単、、、という感じです。
なので、将来の職業にも大きな助けになるかもしれないバッハ(笑)、ピアノ学習の道で多くの人が躓いて挫折するステップでもありますが、根気よく複数回線の開通を目指して頑張って下さい♪

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